「あ゛ー……彼女欲しい」
俺の心の底からの願いだ。
これが叶うなら、今ある全財産を失ったって構わない。
……二千四百円くらいしかないけど。
「それ四回目。そんなこと言って彼女が出来るほど、世の中甘くないっての」
うざったそうに俺の願望に文句を言ったのは、通称ザッキーこと石崎聡。
あんまりノリがいい奴ではないが、悪い奴でもない。幼稚園、小学校、中学校、高校と全て同じクラス。
まぁいわゆる腐れ縁ってやつだ。
俺はそんなザッキーを軽く睨む。
「あ?んじゃーなにか?ザッキーは彼女いらねーってか?」
「んなこと言ってねーっつーの。大体俺に当たるな……この居心地悪い状況作ったのはこいつらだ。
当たるならこいつらに当たれ、康助」
言って、ザッキーは隣を指さした。
隣には──見たくもないが、真っ昼間からいちゃついてる二人がいる。
三村祐貴と、高瀬麻美だ。
こいつらと知り合ったのは中学で、当時二人は付き合っていなかった。
今いる場所はとある小さな喫茶店。
ザッキーと俺がいる理由は、この二人に深刻な悩みがあるから聞いて欲しいと言われたからだ。
それなのに……だ。
このバカップルはずっとイチャイチャしていて、全く用件を話さない。
イチャイチャし出してもうすぐで三分は経つだろうか……。
たった三分と侮ってはいけない。
目の前でひたすらいちゃついているとこを見せられているのだ。
まぁ腹の立つこと腹の立つこと……。
俺は寛大で心優しいからまだ耐えていられるが、恐らく五分経ったら机をひっくり返して帰るだろう。
「なぁ……そろそろ悩みってのを言ってくれ」
言ったのは俺じゃない。ザッキーだ。
あの入り込む隙の無い会話に入り込むとは……ザッキーは俺の中で勇者になった。
──三十分くらいで元に戻るけど。
「さっき言ったよ?」
『は?』
俺とザッキーの声が重なった。麻美の隣では、祐貴が頷いている。
「ちゃんと答えてくれたしな」
いったい、いつだろう。
ここに来てから、深刻な悩みの相談なんてされた記憶は一切無い。
前もって言っておくが、俺とザッキーは十七歳。ついでに麻美と祐貴もだ。
ぼけるような年齢ではない。それに、俺はどちらかというと記憶がいい方だ。
だから、俺はここに来たときからのことを思い出そうとした。
喫茶店について、ちょっとした注文をして、それからすぐに軽い調子で質問された。
次のデートはどこに行けばいいだろうか、と。
俺とザッキーはその質問に適当に答えて、店員が注文したジュースを持ってきて、それから地獄の三分が始まり……今に至る。
やはり、深刻な相談はされていない……いや、まさか……。
嫌な汗が頬を伝わって、落ちていくのを感じた。
信じたくはないが、訊かないわけにはいかない。
「なぁ……もしかして、デートのことだったのか?」
二人は黙って頷いた。
それ以上、二人の話を聞く気は無かった。
俺は無言で立ち上がり、喫茶店を後にした。