考えても判らない。
もしかしたら、道は死ぬしかないのかもしれない。
でも……死ぬのは怖い。
天国とか地獄とか、そういったものは全くと言っていいほど信じていないけれど、
それでも怖いのは自分が死んだ後。
死ぬ、ということ自体はそれほど怖くない。
ただ、死体がどう扱われるとか、亜紀とか恋が怒らないかとか、そういったことを考えると怖くなる。
だから死ぬのは嫌。
他の方法──あるのかな?
ガンッ──。
足がベンチに当たった。
考えすぎで、前が見えてなかったのかな。
……いいや、座って考えよう。
蹴ってしまったベンチに座る。
そして、そこがどこだか初めて気がついた。
そこは史乃に会って、会うたびに腹を立てた公園。
どうしてこんな場所に来たんだろう。
一人で生きていくと決めたのに。
どうして人が集まる場所に来たんだろう。
まるで、人が恋しいみたい。
「──冗談」
決めたばかりなのに。
決めたばかりなのに。
決めたばかりなのに。
……こんなことじゃ、これから生きていけない──。
弱い自分が嫌になる。
早くこの場を離れないとダメになる。
だというのに、身体は動かない。
動きたくない。
子供の楽しそうな声を聞いていると、心が安らぐ。
子供は私が呪われた子だってこと知ってるのかな?
──どっちでもいいか。
知ってて騒ぎ出したら、移動すればいいだけのことだし。
さて……これからどうしようかな。
「こんな所にいたの?」
突然かけられた声は、後ろから聞こえた。
声からして誰だかは判っているけど、一応振り向いてみる。
案の定、そこにいたのは──
「史乃……何か用?私なんかに関わっても、百害あって一利なしだよ。
大体、学校どうしたの?サボりばっかしてると、単位どうなっても知らないよ」
「単位のことは河見さんに言われたくないなぁ……まぁ、俺の単位はどうにかなるから大丈夫。
利があるかないかはこっちで勝手に判断するしね。
用はあってないがごとし、さしずめ用を見つけるためにここにいるのが用ってこと」
……はぁ。
ホント、こいつの考えは判らないなぁ。
「じゃあ勝手にしたら?」
そのうちどっか消えるだろうしね。
それまでは我慢大会。
どうせ勝つのはやることが決まってない私なんだから。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
日が沈んで、辺りは夜の帳に包まれた。
子供たちはもういない。
だというのに、この公園にはまだ私と史乃が残っていた。
我慢大会が始まってから、全く会話はしていない。
「……いい加減帰らないの?」
「河見さんこそ」
しびれを切らして声をかけた私に、史乃は悠然と言い返した。
「残念でした。私にはもう帰る場所なんてないの」
「……どうして?」
あ──しまった。
史乃は怪訝な顔つきで、こちらをジーっと見ている。
言うしかない……か。
「親にまで拒絶されてさ。あんな状態の親と、一つ屋根の下にいる気にはなれないよ」
「……ごめん」
「別にいいよ。あんたが謝る必要なんてないし」
「いや、俺に責任あるからさ」
……?
珍しく真剣な声。
責任……?
「どういうこと?」
「一昨日、河見さんが学校に行った後に親父からの連絡があって、うっかり河見さんの名前を親父の前で出しちゃってさ……
そしたら親父、探偵雇って河見さん調べさせたんだ。
多分……その探偵が河見さんの生理のこと調べたんだと思う。だから、事の発端は俺にあって──」
「止めて。そんなの一つの可能性でしかないのに。大体、仮にそれが本当だとしても──」
バレたとすれば、それは──お爺ちゃんと電話をしてて、声を荒げたときしかない。
家の外で電話してたのだから、誰かに聞かれててもおかしくはないし……結局、自業自得かぁ。
「……まぁ、この状況が変わる訳でもないしね」
「それじゃ……うちに来る?」
人の話聞いてないのかな……こいつ。
「いいって。責任感じてそんなことしても、そっちが後々後悔するだけだし」
「責任感じてるから言ってる訳じゃないよ。理由は別にあるからさ」
理由──ねぇ。
……どうでもいいや。
どうせこれからは一人。
他人の事なんか知っても意味がないんだから。
「そっか。まぁ帰って。私、一人で生きるからさ」
「無理だろうね」
「やってみなくちゃ判らないでしょ?」
「それじゃあ訊くけど、どこで寝るの?食事はどうするの?お金はどうするの?」
「それ──は……」
考えてる途中で、あんたが来たから。
結局、何も考えてなかった。
無心で、ただボーッと子供たちを見てただけ。
「何とかなる……と思う」
「何とかならないから言ってるんだよ……うちに来なよ。
別に何をしろなんて言わない。ちゃんとした方針が決まるまででもいい。だから……うちに来て」
「何で……そんなこと言うの?みんなみたいに冷たくしたらいいのに。
そうすれば、私は一人って割り切れるのに──優しくされたら、どうすればいいか判らなくなっちゃうじゃん」
一瞬の間を開けて
「河見さんのこと好きだからさ。ほっとけなくて」
臆面もなく、史乃はそう言った。
聞き違いではない。
つまり、前々から冗談だと思って流してきた言葉は、全て本当だった……ってこと?
「正気?私、呪われた子だよ?私の近くにいたら、迷惑かかるよ?」
「みんながそう言っているだけで、別に河見さんは呪われてなんかないよ。
それに、迷惑でもない」
……そう。
覚悟……してるんだ。
「いいよ。じゃあ付き合ってあげる」
「──へ?」
「へ?じゃないでしょ。史乃、私に付き合ってって言ったじゃん。
だから、付き合ってあげる」
「い、いいよ。こんなの、俺が河見さんの弱みにつけ込んでOKして貰ったみたいだし──」
予想外だったのか、史乃はかなり焦っている。
というより、ここまで焦るなんて……もしかして。
「付き合ってって言ったの、やっぱり嘘だったの!?」
「ち、違うって。あんな悪質な嘘は言わないし、勿論本気だったけど──」
「じゃ、問題なし。私は弱みにつけ込まれたなんて思ってないから。
これからよろしくね、史乃」
「あ、うん……よろしく」