家に帰ったのはいいけど、やること何もないなぁ……。

あー、英語の宿題はあったっけ?

……まぁいいか、あんなの。

宿題なんて、学校で恋にでも写させて貰えばいいし。

予習復習なんてのもやる気はしないなぁ。

賢い人はやるんだろうけど、あいにく私は賢くない。

面倒なことはしない主義だし。

そんなに良い大学に入るつもりもないから、適当にしてても平気でしょ。

んー……どうしよっかな。

買い物は……止めよ。

欲しい物はいっぱいあるけど、そろそろお金が少なくなってきている。

となると──散歩でもしよっかなぁ。

自分の部屋だと、寝ちゃいそうだし。

ぐぅぅ......

む……。

そういや、何も食べてなかったなぁ。

そうだ。

せっかく学校休んだんだし、どっか外で食べよ。

おにぎりか何かを作れば、お金はかからないしね。

「それじゃ、あるもの適当に使ってちゃっちゃとやっちゃおっと」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「まさか……うちの冷蔵庫があそこまで寂しいとは……」

白ご飯はあった。

でも、肝心な中に入れる具がなかった。

……私にどうしろ、と。

諦めて、今日の昼ご飯は塩だけで味付けをした塩おにぎりにすることにした。

食べるものが貧相なら、せめて食べる場所くらいはのんびり出来るところがいいんだけど……。

ついでに日向で食べるのは遠慮したい。

冬ならともかく、この暑い時期にわざわざ日向に行く気はしないもんね。

……はぁ。

ぶーらぶらしてるうちに、なぜだか昨日の公園が目の前にあった。

食べる場所はここでも問題はなかった。

溜息が出た理由は、昨日の話を思い出したから。

──あー、腹立つ。

今後は史乃の話なんかに絶対耳貸さないでおこう。

一泊させて貰った恩はあるけど、あんな子供みたいなのにこれ以上関わりたくはなかった。

「ま、今日は早退してないでしょ」

……根拠はないけどね。

それでも、のんびりと公園に入っていく。

ベンチは所々にある。でも、日陰にある、という条件付きだと数が少なかった。

最初に見つけた日陰のベンチでは、オッサンが一人居眠りをしていた。

次に見つけた日陰のベンチでは、平日なのにカップルがいちゃついていた。

その次に見つけた日陰のベンチでは──史乃がいた。

何をするでもなく、ボーッとしている。

とりあえず、関わり合いにはなりたくなかったので──見なかったことにした。

幸い、あいつはこっちに気づいていないからね。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

……で。

どうして残ってるベンチは全部日向なのかなぁ……。

三分くらいかけて公園のベンチを全部見たけど、どれも日向。

日陰のベンチはおっさんとカップルと史乃に占領されてるし……。

仕方ない。ちょっと、いや、かなり気にくわないけど、史乃の横に座らせて貰お。

ここで帰るのは情けないというか、負けたって気分になるから嫌だし。

ちなみに、史乃はまだこっちに気がついていない。

意を決して、史乃の眼前へと歩いて行く。

まだ気がついてない。

遠目からでは気がつかなかったけど、目をつむってるみたい。

もしかしたら寝てるのかもしれない。顔は凄く穏やかだし、あまり身動ぎをしていない。

寝てたとしても……勝手に隣に座るのは悪い……かな?

「史乃、起きてる?」

声をかける。

閉じていた目は、それに反応してゆっくりと開いた。

やっぱり寝てた訳じゃなかったか。

「あれ……河見さん、学校は?」

「休んだ。用事が入ってさ。そういうあんたは?」

「行く気分になれなかったんだ。同じ日に休んで同じ場所に来るなんて、気が合うね」

いや……ただの偶然だから。

ていうか、あんたなんかと気が合いたくないし。

「それで、何か用でも?あ、もしかして付き合ってくれる気になったとか?」

「残念、何年経とうと付き合おうって気にはなれないかな。用があるのはあんたじゃなくて、その場所。

日陰のベンチに座りたいからさ……横座っていい?」

どうぞ、と言って、史乃は少し詰めてくれた。

私は黙ってベンチに座り、家で作ったおにぎりを食べる。

作ってきたのは四個。

ちょっと多いけど、のんびり食べるから問題はなし。

史乃との会話はない。

いつもなら話しかけてくるのに──不思議。

まぁ、のんびりするために来たのだから、この状況はありがたい。

視線が合うと会話が始まりそうなので、極力史乃の方は見ないようにする。

子供たちの遊び声をバックグラウンドに聞きながら一個目を食べ終えて、視線を落とす。

膝の上にあるおにぎりは二個。

一個を取って口に……って、え?

作ってきたのは四個。

食べたのはまだ一個だけ。

嫌な予感がして、横に座っている史乃を見た。

史乃は黙々と、私が作ったおにぎりを食べている。

……おいこら。

「あんた……何してんの?」

「おにぎり食べてる」

……そりゃ見たら判るよ。

あ〜もう、こいつは……。

そんなことを思ってる間に、史乃は手に持っていたおにぎりをペロリと平らげた。

「んー……塩味だけだとなんかあれだね。鮭とか、たらことか入れれば良かったのに」

…………。

「勝手に人のおにぎり食べて、更に文句を言う?なるほどねぇ。どういう神経してるのかな?」

あー、口元が引きつってるのが自分でも判る。

なのに、史乃はヘラヘラと笑いながら

「文句は言ってないよ。言ったのは感想。神経は普通だよ?それに、俺は河見さんのこと思って食べたんだけどな」

と言った。

「へぇー。私のことを思って?どう思って食べたのか説明してくれる?」

「単純に、その大きさのおにぎり四個全部を女子が食べると、太るんじゃないかとぶっ!?」

うざったいので、おにぎりを口につっこんでやった。

絶対こいつは喧嘩を売ってる。

「どうもご親切に。でも人の体型の心配をするのは、か・な・り失礼だってことくらい理解してくれる?

そんなに食べたいならこのおにぎりあげる。それじゃ、私もう帰るから」

 

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