──ん……。
太陽の光が顔を照らしてくる。
しまった、寝る前にカーテン閉めるの忘れてた……。
太陽の馬鹿、私の安眠を妨害するなんて……。
でも、起きちゃったんだし諦めよ。
また寝る気分にもなれないし。
寝ぼけ眼で、時計を見た。
午前十時二十分。
お爺ちゃんのところへは何時に行こうかな?
移動にかかる時間は、徒歩と電車で三十分強。
今日来い、と言われただけだから、別にいつ行ってもいいんだよね。
ちなみに昨日、お母さんは帰ってこなかった。
仕事が大変らしい。
お父さんは帰ってきたら、インスタント食品を食べてお風呂に入って寝た。
私も似たようなもので、インスタント食品を食べてお風呂に入って、テレビを見てから寝た。
会話は全くしていない。
する気も毛頭なかったけどね。
お母さんがいても、それは変わらなかったと思う。
というより、お母さんとも必要最小限のこと以外は話さない。
遅刻するのが気にくわないのか、朝は起こしてくれるけど、お弁当を作ってくれたことはないし。
まぁ単純に、うちの家庭は冷めてるのだ。
必要以上にお互いに干渉しない、形だけの家族。
一度、ぐれてみようかと考えたことがあった。
それを止めた理由は、亜紀と恋がいたから。
親に心配をかけることは気にならなかった。
いや、まずあの親が心配するかどうかも怪しいもんだし。
お父さんは無視しそうだし、お母さんが心配するのは私のことじゃなくて、世間体のこと。
十分あり得る。
リアルすぎて笑えない。
けどそんな親と違って、亜紀と恋は心配してくれるだろう。
心配させて悪いなぁ、とこっちが自己嫌悪に陥りそうなくらいに。
あの二人は、今までいろんな相談に乗ってくれた。
恋愛、勉強、将来、etc......
親よりも頼りになる友達。友達よりも冷たい親。
……変なの。
笑いがこみ上げてくる。
中学校の頃は気にしていたけど、今は全く気にならない関係。
あそこまで冷たい親は珍しいのかもしれない。
たまに不思議に思う。
お母さん方のお爺ちゃんはとても優しい。お婆ちゃんも優しかった。
なのに、どうしてあんなお母さんが出来たのだろうか。
判らない。
判っても意味はないんだけどね。
今更親のことを理解しようなんて思わないんだもん。
──っと……時計を見たら、十時五十分になっていた。
三十分も考えてたのかぁ……どうも最近、私はおかしいな。
家に居てもやることないし、お爺ちゃんのところへ行こう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
電車に揺られて二十数分、ようやく駅に到着した。
うちと比べて、ホントに田舎っぽいなぁ。
来るたびに思う。
電車でちょっと移動しただけなのに、差がありすぎだろう。
まず第一に、駅が汚い。
次に車が少ない。
他にも古い家が多いだとか、コンビニまでが遠いだとかする。
電車の本数も少ないから、交通にも不便だし、あんまり住みたいとは思わない。
けれど、ここは好きな場所の一つだった。
静かだし、緑が多いから。
お爺ちゃんの家まで、歩いて五分くらい。
走ったら二分ほどで着くだろう。
ま、走る気はないけどね。
そんなことを思いながら、のんびりと歩いた。
昨日よりは暑さはマシだった。
ここらの家は大抵庭があるから、それが関係してるのかもしれない。
それでも暑いことに変わりはないけどね。
本屋が視界に入った。
汚い本屋で、置いてある本は変わった本ばかり。
漫画とかは一切なくて、代わりに哲学書のようなものがずらーっと並んでいる。
前に行ったのは二年ほど前だけど、多分今でもそうだと思う。
あの本屋が見えたってことは、お爺ちゃんの家ももうすぐだ。
というより、もう見えている。
走れば十秒ほどで着きそうな距離に、家はあった。
いかにも昔の家です、と言わんばかりのボロさ。
少し大きな地震が来たら、一瞬で倒壊しそうだし。
入口は引き戸。
チャイムなんてついていない。
屋根は瓦屋根で所々割れているらしく、雨漏りするから困っている、と言っていた。
じゃあ直したら?って言ったら、面倒だって言ってやらないから救いようがないし。
入口の前に来ると、開ける前にお爺ちゃんに声をかけるのが習慣となっている。
当然、今日もそうした。
「お爺ちゃん、来たよ」
「あぁ紗英、いらっしゃい。入ってきなさい」
いつもなら返事は十数秒遅れて来るが、今回は間髪入れずに返ってきた。
いつ来てもいいように準備してたのかな……。
とりあえず、言われた通り扉を開けて中に入る。
そして目に入ったのは、微笑んでいるお爺ちゃんと山積みになっている段ボールだった。
「お爺ちゃん、それ何?」
段ボールを指差して訊く私に、お爺ちゃんは嬉しそうな声で
「これかい?生理用ナプキンだよ。納屋を探したら、これだけ見つかったんだ」
と言った。
何でそんなに……と、言おうとしたけど止めた。
いろんな点で不思議だらけの人だから、追及するだけ無駄だろう。
「でも、そんなにいらないでしょ?」
「そうだね。段ボール一つ分持って行くだけでも、かなり保つだろう」
「うーん……段ボール一つ分も多すぎじゃないかな?
ていうか、そんないっぱい持って帰れないよ」
「あぁ、大丈夫だよ。持って帰れない分は宅配便で送るから」
……あ。
どうして気づかなかったんだろ。
「お爺ちゃん、それなら私が来なくてもよかったんじゃ?
最初から全部宅配便で送れば……」
「………………ところで紗英、学校は楽しいかい?」
オーイ。
あからさまに話逸らしたよね、今。
目が泳いでるよ……もう。
子供じゃないんだから……。
それからしばらくの間、お爺ちゃんの無駄話に付き合った。
そして話が終わり、帰ろうとする私にお爺ちゃんは
「頑張るんだよ」
と言った。
その時だけは、お爺ちゃんも真剣な目をしていた。
「うん、それじゃまたね」
笑顔で手を振って、私はお爺ちゃんとお爺ちゃんの家に背を向けた。